営業権譲渡とは?価格相場や資金調達のメリット・デメリット

複数の事業を抱える経営者ほど、以下のようなお悩みがあるのではないでしょうか?

「赤字の事業、いつまで抱えておけばいいんだ…」
「この部門を切り離せれば、本業にもっと資金を回せるのに…」

一部の事業だけを手放して現金に換える方法があると知れたとしても、いざ調べると営業権譲渡」と「事業譲渡など、似た言葉が出てきてどちらが自社に合う話なのか分からなくなる。また、売ろうとしても価格がいくらになるのかも見当がつかない。これが多くの社長が止まる原因です。

厄介なのは、営業権譲渡が「会社を売る話」ではなく「事業の一部だけを売って資金をつくる手段」になるということは、あまり知られていないことです。本業を守るためにお荷物の事業だけを譲渡し、得た資金で借入を返したり新規投資に充てる。この組み替えができれば、資金繰りの景色は大きく変わります

筆者が経営する「融資代行プロ」では、これまで多くの中小・中堅企業の資金調達や事業の組み替えをご支援してきました。

筆者「岡島光太郎」のプロフィール
岡島光太郎_株式会社融資代行プロ 代表取締役

これまでの支援実績
創業前後の個人/法人中堅企業
調達額「200万円」〜「9.5億円」
多業界の資金調達 / 財務コンサル実績

本記事では営業権譲渡を、M&Aの教科書的な解説ではなく「資金調達の選択肢の一つ」という視点から整理します。

営業権譲渡の意味事業譲渡との違いから、価格相場の決まり方メリット・デメリット営業権の計算フロー、そして実際に資金を手にするまでの6ステップまでを一気に解説します。読み終えたとき、自社のどの事業をどう動かせば最も資金を残せるかが見えるはずです。

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目次

営業権譲渡とは? − 事業の営業上の権利を他社へ譲ること

営業権譲渡とは、会社が営んでいる事業の「営業上の権利」をまるごと他社へ譲り渡すことを指します。設備や在庫といった目に見える資産だけでなく、その事業が積み上げてきた取引先との関係、ブランド、ノウハウ、顧客リストといった無形の価値ごと引き渡すのが特徴です。

ポイントは、会社そのもの(法人格や株式)を売るわけではないという点です。あくまで「事業」を単位として売るため、複数の事業を持つ会社であれば、手放したい事業だけを選んで譲渡できるのが大きな利点になります。

本業は手元に残したまま不採算部門や本業と相性の悪い部門だけを切り出して現金化する、という使い方ができるわけです。

実務の現場では、営業権譲渡は「会社を畳む話」ではなく「資金繰りを立て直す一手」として相談を受けることが少なくありません。融資だけで資金を手当てしようとすると借入が膨らみますが、使っていない事業や赤字の事業を売れば、借入を増やさずに資金をつくれます。資金調達の選択肢として頭の片隅に置いておく価値は十分にあります。

「営業権譲渡」と「事業譲渡」はほぼ同じ意味

結論から言うと、「営業権譲渡」と「事業譲渡」は実務上ほぼ同じ意味で使われます。違いは呼び名だけ、と考えてほぼ問題ありません。

なぜ2つの言葉があるのかというと、法律上の整理が途中で変わったためです。

かつて商法では「営業の譲渡」という言葉が使われていましたが、2006年に施行された会社法で「事業譲渡」という用語に整理し直されました。そのため、現在の法律用語としては「事業譲渡」が正式ですが、現場では今でも「営業権譲渡」「営業譲渡」という言い方が根強く残っています。

つまり、社長が「営業権を売りたい」と言っても、専門家が「事業譲渡ですね」と返しても、指している中身は基本的に同じです。言葉の違いに振り回されず、「どの事業を、いくらで、どんな条件で渡すか」という中身に集中することが大切です。本記事でも以降、両者をほぼ同義のものとして扱います。

営業権とは? − 無形の財産を保有する権利

ここで、営業権譲渡の核心である「営業権」そのものを整理しておきます。

営業権とは、ひとことで言えば「その事業が、ほかの会社より多く稼げる力=超過収益力」を財産として捉えたものです。同じ業種・同じ規模でも、長年かけて築いた信用や取引網があれば、新規参入の会社より高い利益を上げられます。その差を生む源泉が営業権です。

具体的に営業権に含まれるものとしては、次のようなものが挙げられます。

▼営業権に含まれるもの

  • 社会的信用(事業の知名度やブランド力)
  • 顧客リスト(既存顧客との継続的な取引関係)
  • 特殊な技術・ノウハウ(他社が簡単には真似できない強み)
  • 取引先との関係(仕入先・販売先との信頼関係)
  • 立地条件(集客に有利な店舗・拠点の場所)

これらはどれも貸借対照表には載らない無形の価値です。だからこそ、自社で評価していると「こんなものに値段がつくのか」と過小評価しがちですが、買い手から見れば「ゼロから立ち上げる手間を買える」大きな魅力になります。

営業権をきちんと評価して価格に乗せられるかどうかで、手にする資金は数百万円から数千万円単位で変わってきます。

「営業権」と「のれん」の違い

「営業権」とよく似た言葉に「のれん」があります。日常の会話では、ほぼ同じ意味として使われることが多い言葉です。ただ、使われる場面と中身には少し違いがあるので押さえておきましょう。

「営業権」は、どちらかというと税務や法律の文脈で使われる言葉です。一方の「のれん」は、会計の文脈で使われます。会計上の「のれん」は、M&Aの際に「買収価格」と「買った事業の純資産(資産から負債を引いた額)」との差額として計上される、という形で定義されます。

用語主に使われる場面中身
営業権税務・法律事業の超過収益力(無形の財産)
のれん会計買収価格と純資産の差額として計上される無形資産

ざっくり言えば、交渉の段階で評価する「事業の超過収益力」が営業権、その営業権も含めて、買収価格と純資産の差額として決算書に計上されるのが会計上の「のれん」です。

両者は重なる部分が大きいので、実務の会話では区別せずに使っても困ることはほとんどありません。譲渡の交渉では「営業権をいくらと見るか」、決算書に反映する段階では「のれんとして計上する」という流れになります。

用語の違いそのものより、その金額がどう決まるかを理解する方がはるかに重要です。

営業権譲渡で資金調達する3つのメリット

営業権譲渡を「資金調達の手段」として見たとき、融資や出資にはない3つのメリットがあります。

▼営業権譲渡で資金調達する3つのメリット

メリット1. 不採算の事業を切り離せる

最大のメリットは、赤字や本業の足を引っ張っている事業だけを手放せることです。複数の事業を抱えていると、儲かっている本業の利益を不採算事業の穴埋めに食われ、会社全体としては伸び悩む、という状態に陥りがちです。

営業権譲渡なら、そのお荷物の事業だけを切り出して譲渡できます。「赤字事業を引き受けてくれる相手がいるのか」と思うかもしれませんが、買い手にとっては「自社の強みと組み合わせれば黒字化できる」と判断できる事業であれば十分に買う価値があります。立地・顧客・許認可といった、その事業ならではの価値に値段がつくのです。ただし、赤字の度合いや再生の見込みによっては営業権がほとんど評価されない(ゼロやマイナスになる)こともあるため、過度な期待は禁物です。買い手にとっての戦略的な価値があってこそ値がつく、という前提は押さえておきましょう。

切り離した後は、経営資源を本業に集中できます。資金面だけでなく、社長や社員の時間・神経も本業に向けられるようになる。これは数字に表れにくいものの、再成長の土台として非常に大きな効果があります。

メリット2. 売却で資金調達できる(借入を増やさない)

2つ目のメリットは、事業の売却対価がそのまま資金として手元に入ることです。融資は借りたお金なので、当然ながら返済義務が発生し、利息も払い続けることになります。一方、営業権譲渡で得た資金は返済不要の自己資金です。

この資金を、既存の借入の返済に充てれば財務体質が改善しますし、新規事業や設備投資の原資にもできます。「借りずに資金をつくる」という発想は、資金繰りが厳しい局面ほど効いてきます

もちろん、銀行融資が組めるならそちらを優先すべき場面も多くあります。大切なのは、融資・出資・資産売却・事業譲渡といった複数の選択肢を並べたうえで、自社にとって最も資金が残る組み合わせを選ぶことです。自社の事業をどう組み替えれば最も資金を残せるかは、一度専門家と一緒に整理することをおすすめします。融資とあわせた最適な打ち手の設計は融資代行のサービス詳細もご覧ください。

「日本政策金融公庫」「地方銀行」「信用金庫」「商工中金」の融資は「何となく」で進めると必ず失敗します。融資では、金融機関の理解・ノウハウ・実務経験が必要です。

融資代行プロは、10年以上の金融機関経験のあるコンサルタントが「成果報酬型1%~」で融資コンサル/代行するサービスです。これまで6,500社以上の融資相談を受け「200万円〜9.5億円の融資の成功実績を挙げてきました。

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メリット3. 法人格を残したまま既存事業を売却できる

3つ目のメリットは、会社(法人格)はそのまま残して、事業だけを売れることです。

会社ごと売る「株式譲渡」と違い、営業権譲渡では譲渡するのはあくまで「事業」です。そのため、譲渡した後も会社は存続し、社長は経営者であり続けられます残した本業や別の事業を引き続き運営できますし、得た資金で新たな事業に挑戦することもできます。

「会社は手放したくないが、資金は必要」「赤字部門は整理したいが、本業はこれからも続けたい」。こうしたニーズに応えられるのが、株式譲渡にはない営業権譲渡ならではの強みです。会社という器を残せることは、従業員の雇用維持や取引関係の継続という面でも安心材料になります。

営業権譲渡の4つのデメリット

メリットの多い営業権譲渡ですが、当然リスクや注意点もあります。資金を確保できても、後から思わぬ制約や負担に縛られては本末転倒です。

事前に以下の4つのデメリットを押さえておきましょう。

営業権譲渡の4つのデメリット

デメリット1. 譲渡後の競業が制限される

見落とされがちな最大の注意点が「競業避止義務」です。これは、事業を売った側が、同じ事業を勝手に再開することを制限するルールで、当事者間で特に取り決めをしなくても、法律が補充的に課す義務です。

会社法21条では、事業を譲渡した会社は、別段の取り決めがなければ事業を譲渡した日から20年間、同一の市町村および隣接する市町村の区域内で、同じ事業を行ってはならないと定められています。この20年はあくまで原則で、当事者間で競業を禁止する特約を結べば期間を延ばせますが、その場合でも譲渡した日から30年が上限です。逆に、当事者の合意で競業避止義務を短くしたり、なくしたりすることもできます。

つまり、「事業を売った直後に、同じ場所で同じ商売をもう一度始める」ということは原則できません。買い手からすれば、せっかく買った事業のすぐ隣で売り手に同じ商売を再開されては困るので、これは当然の保護とも言えます。

ここで特に注意したいのが、会社法21条が直接の対象としているのは「会社が事業を譲渡するケース」だという点です。個人事業の営業譲渡や、単なる資産の売買(設備だけを売るようなケース)では、この条文がそのまま当てはまるとは限りません。また、上記の20年・30年とは別に、不正な競争を目的として同じ事業を行うことは期間を問わず禁じられます。自社のケースで条文が直接適用されるか不安な場合は、譲渡契約のなかで「どの範囲・どの期間まで競業を制限するか」を特約として明記して手当てするのが安全です。後から「言った・言わない」で揉めないためにも、競業の取り決めは契約書で具体的に固めておきましょう

デメリット2. 手続きが煩雑で時間がかかる

2つ目は、手続きの煩雑さです。営業権譲渡では、譲渡する資産を一つひとつ特定し、契約や名義を個別に移していく必要があります。

たとえば、不動産があれば登記の移転取引先との契約は巻き直し(または同意の取得)、許認可が必要な事業なら許認可の再取得が求められることもあります。会社ごと売る株式譲渡なら会社に紐づく契約や許認可がそのまま引き継がれますが、事業だけを切り出す営業権譲渡では、こうした移転手続きを個別にこなすため、相応の時間と手間がかかります

買い手探しから契約締結、引き渡しまで、規模によっては数か月から1年近くかかることも珍しくありません。「資金がすぐ必要だから今月中に」というスピード感では進まないケースが多いので、資金繰りに余裕を持ったスケジュールで動くことが大切です。

デメリット3. 従業員・取引先への説明が必要になる

3つ目は、関係者への説明と合意です。譲渡する事業に従業員がいる場合、その雇用をどう扱うかは大きな論点になります。

事業を譲渡しても、従業員の雇用契約が自動的に買い手へ移るわけではありません転籍には原則として従業員本人の同意が必要です。説明を怠ると、不安から優秀な人材が離れてしまい、肝心の事業価値そのものが下がってしまうこともあります。

取引先も同様です。仕入先・販売先との契約を巻き直す際には、相手の理解と協力が欠かせません。「いつ・誰に・どこまで」伝えるかの順序設計を誤ると、情報が漏れて取引先が離れたり、社内が動揺したりします。誰に何をどう伝えるかは、譲渡を進めるうえで価格と同じくらい慎重に扱うべきポイントです。

デメリット4. 譲渡益に税金がかかる

4つ目は税金です。事業を売って利益(譲渡益)が出れば、当然そこに課税されます。

法人が事業を譲渡して利益を得た場合、その利益は法人の所得に合算され、法人税・住民税・事業税がかかります。これらを合わせた実効税率は、法人の場合で概ね30〜35%程度が一つの目安です(会社の規模・所在地・所得によって変わります個人事業として譲渡する場合は所得税の扱いになり、税率の考え方が異なります)。

さらに見落としがちなのが消費税です。営業権譲渡では、譲渡する資産のうち課税対象となるもの(土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、そして営業権そのもの)について、その譲渡対価に対して消費税10%がかかります。土地や一定の債権などは非課税ですが、それ以外の多くの資産は課税対象です。そのため、譲渡対価の総額にまとめて課税されるわけではなく、どの資産にいくらを割り振るかを、課税資産と非課税資産に合理的に区分しておく必要があります。

なお、法人税率や各種の特例は税制改正で見直されることがあり、適用される税率は会社ごとに異なります。実際の税負担は、必ず顧問税理士に自社のケースで試算してもらってください。「思ったより手元に残らなかった」とならないよう、譲渡価格を考える段階から税金を織り込んでおくことが重要です。税負担まで含めて「結局いくら手元に残るのか」を試算したうえで、譲渡の是非を判断しましょう。

営業権譲渡の価格相場と求める4つの計算フロー

営業権譲渡で最も気になるのが「いくらで売れるのか」でしょう。ここでは価格相場の考え方と、営業権を算定するまでの計算の流れを解説します。

まず、営業権譲渡の価格相場は次の算定式が基本です。

譲渡価格 = 譲渡資産の時価 + 営業権(事業の正常利益の3〜5年分)

つまり、売る資産そのものの時価に、その事業が将来生み出す稼ぐ力(営業権)を上乗せした金額が、おおよその譲渡価格になります。営業権は「正常な利益の3〜5年分」で評価するのが一般的です。

ただし、これはあくまで目安です。営業権の評価は会社の状況や交渉条件によって大きく動くため、「相場はいくら」と一律に言い切るのは難しいのが実情です。同じ利益水準でも、買い手にとっての魅力度や交渉力で2倍3倍の差がつくこともあります。だからこそ、自社の事業をどう見せ、どう交渉するかが手取り額を左右します。

営業権譲渡の4つの計算フロー

計算フロー1. 企業会計の見直し

最初のステップは、会計の数字を実態に合わせて見直すことです。決算書の数字をそのまま使うのではなく、資産や負債が実態を正しく表しているかを確認します。

たとえば、回収できない売掛金や、価値の落ちた在庫が帳簿に残っていれば、それらは実態の価値に引き直す必要があります。逆に、簿価より価値の上がった不動産があれば時価で評価し直します「帳簿の数字」と「本当の価値」のズレを正すのがこの工程です。ここを丁寧にやらないと、後の営業権評価の土台が狂ってしまいます

計算フロー2. 損益・支払利息の調整

次に、損益計算書を「正常な状態」に調整します。営業権は将来の稼ぐ力をもとに評価するため、その年だけの特殊な要因は取り除いて、平常時の利益(正常利益)を割り出す必要があります。

具体的には、一過性の特別な利益や損失、本業と関係のない収支を除きます。また、支払利息のように、事業そのものの稼ぐ力とは切り離して考えるべき項目も調整します。「この事業が、平常運転でいくら稼げるのか」という素の収益力を浮かび上がらせるのが目的です。

計算フロー3. 役員報酬の確認・修正

3つ目は、役員報酬の調整です。中小企業では、社長や役員の報酬を経営の都合で高めに設定したり、逆に抑えたりしていることが少なくありません。

役員報酬が世間相場とかけ離れていると、その分だけ利益が実態より大きく(または小さく)見えてしまいます。そこで、役員報酬を適正な水準に引き直して、利益を補正します。オーナー個人の事情を取り除き、第三者が経営した場合の利益に近づけるための重要な調整です。買い手はまさにこの「第三者が経営したらいくら稼げるか」を見ているので、ここを整えると評価が安定します。

計算フロー4. 営業権の確定

最後に、ここまでの調整を経て割り出した正常利益をもとに営業権を確定します。前述のとおり、営業権は正常利益の3〜5年分で評価するのが一般的です。

何年分とするかは、その事業の安定性や将来性、業界の状況によって変わります。安定して稼ぎ続けられる事業なら年数を多めに、不安定な事業なら少なめに、というのが交渉の出発点です。こうして算出した営業権を、ステップ1で見直した譲渡資産の時価に上乗せすれば、おおよその譲渡価格が見えてきます。

ここまでの流れを踏まえると、価格は決して「言い値」ではなく、根拠を積み上げて算出するものだと分かります。資金調達の手段として営業権譲渡を検討するなら、まず自社の事業の正常利益を把握するところから始めましょう。

融資を含めた資金調達全体の選択肢は「資金調達の方法の一覧記事」も参考になります。

営業権譲渡で資金調達する基本的な流れ【6ステップ】

実際に営業権譲渡で資金を手にするまでの流れを、以下の6つのステップで整理します。

▼営業権譲渡の資金調達の流れ6ステップ

全体像を掴んでおくと、どこに時間がかかり、どこで専門家の力が要るのかが見えてきます。

ステップ1. 買い手企業の選定

まずは事業を買ってくれる相手を探すところから始まります。同業他社、取引先、その事業に関心のある異業種など、候補は様々です。

買い手選びは価格だけで決めるべきではありません従業員の雇用を引き継いでくれるか、取引先との関係を大切にしてくれるかといった点も含めて、「この相手に任せて安心か」を見極めることが、譲渡後のトラブルを防ぎます。自力で探すのが難しい場合は、M&A仲介や金融機関のネットワークを使うのも有効です。

ステップ2. 双方の意向表明と合意

候補が見つかったら、お互いの意向をすり合わせ、大枠で合意します。売り手は「どの事業を、いくらくらいで、いつ頃譲渡したいか」を、買い手は「買う意思があるか、どんな条件を希望するか」を表明します。

この段階で、基本合意書を交わすことが一般的です。価格や条件はまだ確定ではありませんが、「この方向で話を進める」という共通認識を持つことで、以降の交渉がスムーズになります。

ステップ3. 買い手のデューデリジェンス

合意の方向性が固まると、買い手によるデューデリジェンス(買収監査)が行われます。これは、買い手が「本当にこの事業を、この価格で買って大丈夫か」を精査する調査です。

財務状況、契約関係、許認可、簿外の負債やリスクがないかなどを細かくチェックされます。ここで想定外の問題が見つかると、価格が下がったり、最悪は破談になったりします。だからこそ、売り手側も事前に自社の事業を点検し、隠れたリスクを把握・整理しておくことが、希望価格を守るうえで効いてきます

ステップ4. 条件交渉と営業権譲渡契約書の作成

デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的な条件を交渉します。譲渡価格、譲渡する資産の範囲、従業員の扱い、競業避止の取り決め、引き渡しの時期など、決めるべきことは多岐にわたります。

交渉がまとまったら、その内容を営業権譲渡契約書(事業譲渡契約書)として書面化します。前述した競業避止の特約や、税金の負担をどちらが持つかといった条件も、ここで具体的に落とし込みます。後から揉めないためにも、契約書は専門家のチェックを受けて作成することを強くおすすめします。

ステップ5. 株主への通知・公告と株主総会での承認

事業譲渡は会社にとって重要な決定なので、一定の場合に株主総会の特別決議による承認が必要です。事業の全部、または重要な一部を譲渡する場合がこれにあたります。ただし、譲渡する資産が会社の総資産に占める割合が一定以下(おおむね5分の1以下)の小規模な譲渡では、決議が不要になるケースもあります。

また、株主に対する通知や公告が必要になる場面もあります。手続きの要否は譲渡する事業の規模や会社の状況によって変わるため、自社のケースで何が必要かを事前に確認しておきましょう。ここを飛ばすと、後で譲渡の効力が問題になりかねません

ステップ6. 譲渡手続きの実行

最後に、契約に基づいて実際の引き渡しを実行します。譲渡対価を受け取り、資産の名義変更、契約の移転、許認可の手続きなどを進めていきます。

このステップで、ようやく資金が手元に入ります。受け取った資金を借入返済に充てるのか、新規投資に回すのかその使い道まで含めて計画しておくことで、営業権譲渡は単なる事業の整理ではなく、次の一手につながる資金調達になります。資金調達の出口設計まで含めて相談したい場合は、お早めに専門家へご相談ください。

営業権譲渡の資金調達で、よくある質問(Q&A)

筆者が現場でよく受ける質問を、3つご紹介します。ぜひご覧ください。

営業権譲渡と事業譲渡は何が違いますか?

呼び名が違うだけで、実務上はほぼ同じ意味です。

かつて商法では「営業の譲渡」と呼ばれていましたが、2006年に施行された会社法で「事業譲渡」という用語に整理されました。そのため法律上の正式な言葉は「事業譲渡」ですが、現場では今でも「営業権譲渡」「営業譲渡」という言い方が広く使われています。

指している中身は同じなので、言葉の違いに振り回されず、どの事業をいくらでどんな条件で渡すかという中身に集中することが大切です。

営業権譲渡の価格相場はどう決まりますか?

基本となる算定式は「譲渡資産の時価 + 営業権(事業の正常利益の3〜5年分)」です。

売る資産そのものの時価に、その事業が将来稼ぐ力である営業権を上乗せした金額が、おおよその譲渡価格になります。営業権は正常利益の3〜5年分で評価するのが一般的ですが、何年分とするかは事業の安定性や将来性によって変わります。

ただしこれはあくまで目安で、実際の価格は会社の状況や買い手との交渉条件によって大きく動くため、一律の相場を示すのは難しいのが実情です。正常利益を正しく把握したうえで交渉に臨むことが、手取り額を左右します。

営業権譲渡をすると、すぐに同じ事業を再開できますか?

原則としてすぐには再開できません。

会社法21条では、事業を譲渡した会社は、別段の取り決めがなければ事業を譲渡した日から20年間、同一および隣接する市町村の区域内で同じ事業を行ってはならないと定められています。この20年は原則で、競業を禁止する特約を結べば期間を延ばせますが、その場合でも譲渡した日から30年が上限です。

逆に、当事者の合意で短縮・排除することもできます。これは買った側の事業を守るための競業避止義務です。なお、この条文が想定しているのは会社間の事業譲渡であり、個人事業の営業譲渡や単なる資産売買では適用が変わることがあるため、その場合は契約上の特約で競業の範囲や期間を取り決めて手当てしておくのが安全です。

営業権譲渡は、譲渡する事業を自由に選べる

ここまで見てきたとおり、営業権譲渡の最大の魅力は会社ごとではなく「手放したい事業だけを選んで切り出せる」点にあります。会社ごと手放す株式譲渡と違い、本業は手元に残したまま、不採算部門や本業と相性の悪い事業だけを現金化できます。

ただし、どの事業をどこまで切り出せるかは、許認可・従業員の同意・取引先の承諾・株主総会の承認などによる制約も受けるため、完全に思いどおりとは限りません。

複数の事業を抱える経営者にとって、これは資金繰りを立て直す強力な選択肢です。融資で借入を増やすのではなく、使っていない事業を売って返済不要の資金をつくる。その資金で借入を返したり本業へ集中投資したりすれば、会社全体の体質は良くなっていきます。

一方で、競業避止義務・煩雑な手続き・関係者への説明・税金といった注意点もあり、価格の算定や契約には専門的な判断が欠かせません

「どの事業を、いくらで、どんな条件で手放せば最も資金が残るのか」は、自己流で進めると取りこぼしが生まれやすい領域です。融資・出資・資産売却・事業譲渡を横断して、自社にとって最適な資金調達の組み合わせを設計することをおすすめします。

「日本政策金融公庫」「地方銀行」「信用金庫」「商工中金」の融資は「何となく」で進めると必ず失敗します。融資では、金融機関の理解・ノウハウ・実務経験が必要です。

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