「日本政策金融公庫」や「銀行」、「信用金庫」、「商工中金」からの資金調達は、知識・経験なく「何となく」で進めると必ず失敗します。資金調達の成功には、金融機関の幅広い知見と一定のノウハウが欠かせません。
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中小企業が資金調達する方法は複数ありますが、事業を立ち上げたばかりで歴史の浅い企業や、規模の小さい会社は、希望するような融資を受けられないのが現状です。
そこで新たに創設されたのが、「コミュニティクレジット」と呼ばれる資金調達方法です。コミュニティクレジットを利用すれば、新規事業者や地方の中小企業でも、十分な資金を調達できる可能性が高くなるといわれています。
この記事では、
- コミュニティクレジットの概要
- コミュニティクレジットの資金調達の仕組み
- コミュニティクレジットを利用するメリット・デメリット
について、わかりやすく解説します。
コミュニティクレジットとは
企業が銀行などの金融機関から融資を多額の融資を受けるには、十分な債務支払い能力を有している=信用力があることを評価してもらう必要があります。
信用力は、事業歴や事業規模、財務状況などさまざまな角度から評価されますが、大手企業に比べると、新しく事業を立ち上げたばかりの企業や地方の中小企業はどうしても不利になってしまいます。
そんな新規事業者、地方企業の問題を解決するために創設されたのが、コミュニティクレジットです。
地域社会あるいは共同体を意味する「community」と、信用・債権などを意味する「credit」を融合した造語で、地域企業が相互協力し合い、連携して高い信用力を形成することを表しています。
企業単体の場合、その会社の経営が傾くと貸し倒れのリスクが高くなりますが、複数の企業による強固なコミュニティが構築されていれば、債権を安定して回収できる可能性が高まるため、金融機関も多額の融資に応じてくれるようになります。
コミュニティクレジットが生まれた背景
新たな金融手法としてコミュニティクレジットが創設された背景には、全国的な預貸率の減少があります。
日本の預貸率は、2000年代初頭にはほとんどのところで50%を超えており、地域によっては90%を超えるところも少なくありませんでした。
ところが、その後は年を追うごとに預貸率は悪化し続け、2011年度末には地方を中心に、預貸率が50%を下回るエリアが増えてきました。
特に東北地方は6県中3県で預貸率が40%以下に落ち込んでおり、地方ほど貸出額が減少している実態がうかがえます。
こうした状況を鑑み、日本政策投資銀行は昔からある「頼母子講(無尽講)」をもとに、コミュニティクレジットの企画に着手しました。
頼母子講とは鎌倉時代に始まり、江戸時代に流行した伝統的な庶民金融のことです。
地域経済の活性や、相互扶助の精神から始まった習わしで、一定の期日に構成員が拠出した掛金をもとに、くじや入札で決まった当選者に一定の金額を給付したり、購入した家畜や家財道具などを交代で分与したりしていたことが記録に残っています。
銀行の出現によって頼母子講の慣習は次第に廃れていきましたが、現在もなお親睦やコミュニティの構築を目的に実施しているところもあるようです。
こうした庶民金融が普及していた歴史をもつ日本では、コミュニティクレジットは比較的浸透しやすく、地域経済や地域金融を活性化させる手段のひとつになるのではないかと期待されています。
コミュニティクレジットでの資金調達の仕組み
コミュニティクレジットで資金調達する仕組みには、信託銀行や銀行などの金融機関、コミュニティクレジット参加企業、借入を希望する参加企業、そしてコミュニティクレジット参加企業が出資する信託・SPCという4つの要素が関わっています。
ここでは、コミュニティクレジットで資金調達する仕組みを6つのポイントにわけて解説します。
1. コミュニティの形成
コミュニティクレジットは、ある地域社会において、複数の企業がコミュニティを形成するところから始まります。
コミュニティクレジットは単なる企業の寄せ集めではなく、相互に信頼関係を持つ企業が協力し合い、連携することを前提としているため、コミュニティを形成する際は、それぞれの企業が違いに情報を開示し合い、合意を得る必要があります。
2. コミュニティに出資する
参加企業がそれぞれコミュニティにお金を出資します。
出資の方法は複数あり、信託銀行に信託する場合もあれば、SPC(資金調達や債券発行、利益配分などを目的として設立される特別目的会社)を作成するケースもあります。
3. コミュニティが銀行から融資を受ける
地域企業が複数集まって形成されたコミュニティは、企業単独よりも高い信用力を誇る組織となっています。
互いに信頼し合い、相互扶助の意識が高い組織に対する信用は非常に高く、多額の融資を受けることができます。
金融機関から受けた融資は、指定期日までにコミュニティ(信託・SPC)から銀行へ返済していきます。
4. 参加企業がコミュニティに借入を申し込む
参加企業は自らが構成員となっているコミュニティに対し、必要に応じて借入を申し込むことができます。
もちろん、無条件で融資を受けられるわけではありません。
借り入れを申し込んだ企業は、コミュニティを構成する他の参加企業に対して「なぜ借入を申し込むのか」「融資額を何に利用するのか」などをプレゼンテーションする必要があります。
参加企業がプレゼンテーションの内容に納得し、同意した場合、コミュニティから融資が実行されます。なお、融資を受けた企業が返済不可能になるリスクに備え、融資の実行にあたっては、他の参加企業が貸付に対して部分保証を行う決まりになっています。
コミュニティは融資について、決められた期日までに貸付金の回収を行います。
なお、貸し主となっている参加者は、貸付金がすべて回収されるまで、コミュニティに対して借入を希望することはできません。
貸付金が回収され、貸し主としての役割を終えた後は、あらためて融資を申し込むことができます。
このように、ひとつのコミュニティの中で、貸し主になることもあれば、借り主になることもあるのがコミュニティクレジットの特徴です。
5. コミュニティから配当を受ける
コミュニティに出資している参加企業は、信託・SPCから運用に応じた配当を受け取れます。
6. コミュニティクレジットの終了
金融機関から受けた融資をすべて返済し、当初予定期間が満了したら、コミュニティクレジットは終了となります。
コミュニティクレジットの事例
前節でご紹介したコミュニティクレジットが日本で初めて活用されたのは、2001年のことです。
融資を受けたのは日本トラストファンド株式会社を中心とする阪神・淡路大震災被災企業等15社で構成されたコミュニティです。
日本トラストファンド株式会社は、「自助・自立の精神による被災地経済の再生」を目的に、地元の複数企業から出資を受けて設立された会社です。
これまでも神戸市内で意欲在る企業や人材の育成、企業間連携および新規事業の創出を図るための「神戸駅前大学」を開催してきましたが、インターネット上で開設する「神戸駅前オンライン大学」と連携して新たに6つのプロジェクトを事業化するにあたり、コミュニティクレジットによる資金調達を実行することになりました。
借入にあたっては、信用調査会社を活用した徹底的な情報開示を実施するとともに、開示した情報の真正性を参加企業間で連帯保証し、かつ貸付金について30%の部分保証が行われることになりました。
こうしたコミュニティの信用を担保に、日本トラストファンド株式会社は事業総額1億円の半分にあたる5,000万円を日本政策投資銀行とみなと銀行から融資を受けることに成功しています。
コミュニティクレジットでの資金調達のメリット
コミュニティクレジットを使った資金調達のメリットとデメリットを、以下の表にまとめました。
メリット | デメリット |
|
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ここでは、コミュニティクレジットを使って資金調達する4つのメリットについて、詳しく解説します。
1. 新規事業、地方企業でも資金調達しやすい
融資審査の基準は金融機関によって異なりますが、一般的に事業歴が長く、豊富な事業実績をもつ企業ほど信用力が高く評価され、審査をパスしやすくなります。
逆に、新規事業者や地方の中小企業は、大手企業や都心の企業に比べると審査が通りにくく、不動産などの担保を入れないとなかなか融資を受けられないのが実状です。
コミュニティクレジットの参加企業になれば、単独では十分な融資を受けられない企業でも、他の参加企業の同意を得ることで資金調達を行えるようになります。
借入を申し込むにあたり、他の参加企業の同意を得なければなりませんが、動産を担保に入れる必要はないので、土地や建物などの資産を持たない会社でも資金を調達できるところが利点です。
2. より大きなプロジェクト、企画に携われる
新規事業を立ち上げたばかりの企業は、資金やノウハウの不足により、規模の大きなプロジェクトや企画に携わるのは難しい傾向にあります。
コミュニティクレジットを活用すれば、他の参加企業と共同でプロジェクトを立ち上げることができるため、単独では実行までに時間とコストのかかる企画も、短時間で実現可能となります。
3. 新しいシステム・設備導入のコストを低減できる
新しいシステムや設備を導入するには多額の費用が必要になるため、資金力が不足している企業は思うように事業を拡大できないことがあります。
コミュニティクレジットなら、同じ目的・ニーズを持つ他の参加企業とシステムや設備を共同購入できるので、設備投資にかかるコストを軽減することができます。
4. 他の参加企業とノウハウを共有できる
コミュニティクレジットでは、同じ志をもつ企業が集まり、お互いの持つノウハウや技術力を出し合ってプロジェクトの成功を目指します。
連携してプロジェクトに取り組む過程で、他の参加企業とノウハウを共有することができるので、自社の成長・発展につながります。
コミュニティクレジットでの資金調達のデメリット
コミュニティクレジットで資金調達することにはさまざまなメリットがある一方、いくつか注意しなければならない点もあります。
ここでは、コミュニティクレジットで資金調達するデメリットを3つについて、詳しく解説します。
1. コミュニティ参加には出資が必要
コミュニティクレジットは、参加企業からの出資と銀行からの融資をもとに、借入を希望する企業に貸付を行う仕組みになっています。
そのため、コミュニティクレジットの参加企業になった場合、コミュニティに対して出資しなければなりません。
いくら出資するかはコミュニティによって異なりますが、もともと資金繰りが苦しくて資金調達を検討している企業にとって、出資金の捻出そのものが大きな負担になってしまうおそれがあります。
2. すでに同業種がいる場合、参加が難しくなる
コミュニティクレジットは相互扶助を前提としているため、参加企業同士でノウハウを共有したり、プロジェクトの情報や決算情報を開示したりする必要があります。
他の企業のノウハウや技術を吸収できるというメリットがある反面、参加企業のなかに同業他社がいる場合、ライバルに自社の手の内を明かしてしまうことになります。
そのため、同じコミュニティ内に同業種の企業が複数参加するのは難しく、希望するコミュニティに参加できない場合もあります。
3. 事例が少ない
コミュニティクレジットで銀行から融資を受けた事例は、前節で紹介した日本トラストファンド株式会社の一例のみです。
コミュニティクレジットは、実現すれば多くのメリットがある資金調達法ですが、そのぶんコミュニティを形成するまでのハードルが高く、「強い信頼関係を持つ企業が十分に集まらない」「仕組みがやや複雑で、実現までに時間と労力がかかる」などの理由から、敬遠されているのが実状です。
過去に事例がひとつしかなく、十分なノウハウが共有されていないぶん、実現するまでには長い時間と多大な労力を費やさなければならないのが難点です。
コミュニティクレジットでの資金調達方法、ポイント
コミュニティクレジットで資金調達するには、まず強い信頼関係を築くことができる参加企業とコミュニティを形成しなければなりません。
これまであまり接点のなかった企業同士が強い信頼関係を築くためには、共通の志や目的のもと、相互協力し合うことが必要不可欠です。
そのためには、自社の情報を開示する取り組みや、企業間とのスムーズな連携、健全なコミュニティを維持するためのシステムやルールなどを整備する必要があります。
また、借入を申し込む際は、他の参加企業が納得するようなプレゼンテーションを行わなければなりません。
必要な資金調達を目指すのなら、ただコミュニティに参加するだけでなく、事業計画や経営方針の見直などにも取り組み、将来性・発展性のある企業であることをアピールする準備を怠らないようにしましょう。
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コミュニティクレジットは、他の参加企業との相互協力で資金を調達する新しい金融手法
コミュニティクレジットは、単独企業と金融機関の間で融資契約を結ぶ従来の方法とは異なり、複数の企業がコミュニティを形成し、参加企業からの出資金と銀行からの融資金で貸付を行うという、全く新しい金融手法です。
単独では融資を受けにくい新規事業者や地方企業でも、同じ目的を持つ参加企業でコミュニティを形成し、高い信用力を構築すれば、銀行から多額の融資を受けることができます。
コミュニティ形成のハードルは決して低くありません。しかし、今後ガイドラインの整備などが進めば、地域振興にも役立つ資金調達法として注目されていくでしょう。
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