流動資産担保融資(ABL)と融資・ファクタリングとの違いを解説

流動資産担保融資(ABL)の手続きの流れや特徴、融資やファクタリングとの違いについて知りたい…

流動資産担保融資(ABL)で資金調達する「メリット」「デメリット」を知っておきたい…。

流動資産担保融資(ABL)を活用した企業の、成功事例を知りたい…

銀行や公庫からの資金調達に苦戦している経営者の方であれば、こんな疑問や悩みをお持ちなのではないでしょうか?

近年、流動資産担保融資(ABL)を活用する中小企業が増えてきています。ただ、不動産担保や人的担保にした通常の融資と比較すると、まだまだ歴史の浅い融資制度であるため基本的な知識や資金の調達方法について十分に浸透しているとはいえない状況です

実は、流動資産担保融資(ABL)とは欧米ではごく一般的な資金調達法なのですが、日本はとてもマイナーな資金調達手法です。むしろ日本では、高金利のファクタリングの方が有名になってしまいました

しかし流動資産担保融資(ABL)は、「銀行や公庫に融資してもらえない中小企業」こそ、活用のメリットが大きいのです。

それもあり、経済産業省や中小企業庁なども含めて、ようやく認知拡大の活動に力を入れ始めました
参考>>
経済産業省:「ABLのご案内
中小企業庁:「流動資産担保融資保証制度 活用事例集(売掛金)

私は「中小企業の融資代行プロ」という資金調達サービスで、たくさんの経営者の資金調達ご支援してきました。

記事の筆者
「岡島光太郎」の写真

著者プロフィール

  • 資金調達コンサル会社「(株)融資代行プロ」創業者
  • 財務・資金繰りコンサルティング「御社の社外CFO」創業者
  • 経営コンサル会社「(株)Pro-D-use」創業者
  • 中小企業の融資・補助金など資金調達支援の実績多数

これまでの支援実績
個人事業主 / 創業後スグの1人法人 / 売上300億の法人
資金調達額「100万円」〜「5億円」
あらゆる業界の資金調達 / 財務・資金繰りコンサル実績

本記事では、近年注目を集めている「流動資産担保(ABL)の基礎知識」や「メリット・デメリット」、「融資やファクタリングとの違い」「資金調達の流れ」などについて詳しく解説します。

「日本政策金融公庫」や「銀行」、「信用金庫」、「商工中金」からの資金調達は、知識・経験なく「何となく」で進めると必ず失敗します。資金調達の成功には、金融機関の幅広い知見と一定のノウハウが欠かせません。

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目次

流動資産担保融資(ABL)とは、流動資産を担保する融資のこと

流動資産担保融資(ABL)について説明するには、まず流動資産について把握する必要があります。

流動資産とは、文字通り流動性の高い資産のことです。ここでいう「流動性の高さ」とは、「現金化しやすい」ことを意味しており、一般的には企業が有する資産のうち、1年以内に現金として回収されるものを指します。

現金や預金はもちろん、

  • 製品
  • 売掛金(売掛債権)
  • 受取手形
  • 有価証券

など、実際に支払いが行われるまでは売り手のもとに代金が入ってくることはありませんが、後日支払われることが約束されているお金なので、帳簿上では「資産」として計上されます。そして、これらは短期間で現金化できるもすべて「流動資産」に分類されます。

なお、流動資産は現金化のしやすさによって「当座資産」「棚卸資産」「その他」の3つに分類されています。

最も現金化しやすいのは現金や預金、売掛金、受取手形、有価証券などを含む当座資産で、現金化に売却などをともなう資産は棚卸資産に分類されます。当座資産・棚卸資産のどちらにも分類されない流動資産(短期貸付金や未収金など)は、「その他」にカテゴライズされます。

こうした流動資産そのものを担保入れることで、金融機関から必要資金の融資を受けるのが流動資産担保融資(ABL)です

ABLとは「Asset-based Lending」の略称で、直訳すると資産(Asset)を担保にして(based)受ける融資(Lending)となります。不動産を持たない中小企業でも必要な調達できる方法でもあります。

前述した当座資産・棚卸資産・その他流動資産を担保にして融資を受ける場合は、基本的に流動資産担保融資(ABL)に該当します。

流動資産担保融資(ABL)の特徴

流動資産担保融資(ABL)は、中小企業が事業で使用・保有している流動資産を担保に入れて融資を受けられる資金調達方法です。土地・建物などの不動産を持たない企業や、赤字・債務超過に陥っている企業でも、価値のある流動資産を保有していれば、十分な融資を受けることができます

流動資産担保融資(ABL)と、従来の資金調達方法の最も大きな違いは、担保が流動資産であることです。

これまで、日本の中小企業が融資を受けるためには、建物や土地などを担保にして資金を調達する「不動産担保」や、連帯保証人または連帯債務者をつけて資金を調達する「人的担保」のいずれかしか選択肢が存在しませんでした。

不動産担保で融資を受けるには、当然建物や土地を保有していなければなりませんし、人的担保で融資を受けると会社の事業がうまくいかなかった場合、連帯保証人や連帯債務者の生活に支障を来すリスクがあります。

そこに流動資産担保融資(ABL)が加わったことで、中小企業は現在保有している資産を担保にしてお金を借りるという新たな選択肢を検討することが可能となっています。

その代わり、今までにない資金調達手法であるため審査などに少し時間がかかるのが一般的です。(1ヶ月〜2ヶ月ほど)

流動資産担保融資(ABL)の特徴をまとめると、

  • 不動産資産がない企業でも融資を受けられる
  • 貸し手の審査や企業側の登記手続きに一定の時間が必要

流動資産担保融資(ABL)の対象

従来のような不動産の担保が対象なだけでなく、下記のような在庫や売掛金、機械設備も、担保になり得るものとして評価されます。

  • 売掛金
  • 在庫
  • 建物
  • 機械設備
  • 土地

流動資産担保融資(ABL)が向いている企業

  • 在庫・売掛金等の流動資産が多く、資金調達ニーズがある企業
    →担保として評価され得る資産規模が大きいため
  • 売上高が急速に成長した企業(例:創業からの期間が短い企業)
    →売上増加による在庫・売掛金増加に適した「増加運転資金ニーズ」に適する融資スキームであるため
  • 機械設備等の固定資産の規模が大きい企業
    →機械設備等の動産も担保として評価されるため

業界で言うと、「製造業」「卸業」「運送業」「人材派遣業」「広告代理店」「印刷業」などが対象になりやすく、こんな企業であれば、下記のような状態でも、流動資産担保融資(ABL)で資金調達できる可能性があります

  • 業績が悪い赤字である
  • 税金や社保を滞納中
  • 事業再生中(リスケ中)
  • 銀行から融資を断られた
  • 債務超過である
  • 保証協会や銀行の融資枠が目一杯

一方で、下記のように相性が悪い「条件(状態)」や「業界」もあります。

  • 季節要因で売上の波が大きい
  • 売掛先が少ない(20社未満)
  • 業界:建設業 / 不動産 / ソフトウェア開発 / 飲食業 / 小売

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流動資産担保融資(ABL)保証とは?

流動資産担保融資(ABL)では、貸し手(銀行など)が借り手(企業)の保有する流動資産の価値を見極めたうえで、それに見合った融資を行います。

しかし、万一借り手の事業がうまくいかず、融資の返済が難しくなった場合、貸し手は債務を回収できなくなってしまいます。

こうした貸し手側のリスクを軽減するため、平成13年12月に新たに創設されたのが流動資産担保融資(ABL)保証制度です。同制度を利用すれば、流動資産担保融資(ABL)で確保した借入金の返済が難しくなった場合、信用保証協会によって貸付残高の8割を代位弁済してもらえます。

貸し手にとっては貸し倒れのリスクを軽減できますので、流動資産担保融資(ABL)を申し込む際は、流動資産担保融資(ABL)保証制度を利用するのが一般的となっています。

流動資産担保融資保証制度について

流動資産担保融資を利用するにあたり、ぜひ知っておきたいのが「流動資産担保融資保証制度」の概要です。

流動資産担保債権は、後日代金が支払われることが確約された債権ですが、支払い前に売掛先が破綻・倒産してしまった場合、債権を回収できなくなるリスクがあります。そのため、かつては売掛債権を担保にして融資を申し込んでも、金融機関に断られるケースが少なくありませんでした。

そこで国では、中小企業がニーズに応じて迅速に資金を調達できるよう、保証協会が売掛債権担保融資の債務を保証する売掛債権担保保証制度(2007年に流動資産担保融資保証制度に名称変更)を新たに創設しました。

売掛先の破綻・倒産など、何らかの理由によって融資の返済が不可能になってしまった場合、保証協会が借入残高の8割を保証する仕組みになっています。この保証制度の創設により、金融機関の貸し倒れリスクがさらに低減されたことから、売掛債権を担保にした融資契約はぐっと増加しました

実際、参議院がまとめた資料によると、流動資産担保融資保証制度が創設された翌年から、メインバンク・地域金融機関ともに、売掛債権を含む流動資産を担保に入れた融資の実行額は右肩上がりに増えています。

かつて売掛債権を担保に融資を申し込み、断られてしまった…という企業でも、保証制度の創設により、現在は新たな資金調達方法として活用できる可能性が高くなっています。

流動資産担保融資(ABL)保証の対象者と、保証内容

流動資産担保融資(ABL)保証は、中小企業者(製造業では資本金3億円以下または常時使用する従業員数300人以下の会社等)であれば、基本的に業種に関係なく利用することができます。

従来の信用保証協会の利用者の範囲と変わりませんので、これまで同協会の保証を利用したことのある企業なら、問題なく利用できるでしょう。

同制度の保証割合は8割と説明しましたが、保証限度額は2億円、借入限度額は2億5千万円までと、それぞれ上限が設けられています。

流動資産担保融資(ABL)保証の保証形式

流動資産担保融資(ABL)保証の保証形式には、「根保証」と「個別保証」の2種類があります。

「根保証」とは、あらかじめ借入限度額や期間を定め、その範囲内で保証を反復継続する形式のことです。根保証の場合、貸付形式は当座貸越となり、約邸弁済または臨時弁済によって返済していきます。

一方の「個別保証」は、1回の借り入れごとに保証を行う形式のことです。個別保証の場合、貸付形式は手形貸付となり、返済引当とした売掛金の支払期日になったら、借入金を一括弁済することになります。

保証期間は、根保証は1年(更新により延長可)、個別保証は1年以内です。

担保とする流動資産が売掛金の場合は根保証・個別保証のいずれも選べますが、棚卸資産を担保とする場合、利用できるのは根保証のみとなります。いずれの場合も、借り手は借入額(根保証の場合は極度額)に対し、年0.68%の保証料を支払う必要があります。

流動資産担保融資(ABL)を資金調達に利用する3つのメリット

流動資産担保融資(ABL)を資金調達に利用するメリットとデメリットを、以下の表にまとめました。

メリットデメリット
不動産担保なしでも多額融資が可能
赤字 / 債務超過でも融資可能
貸し手と信頼関係が構築できる
審査や評価、登記手続きに時間がかかる
流動資産の管理体制の徹底が必要
保証料がかかる

まずは、流動資産担保融資(ABL)を資金調達に利用するメリットについて、詳しく解説します。

メリット1. 不動産担保がなくても多額の融資を受けられる

流動資産担保融資(ABL)の最大のメリットは、現在保有している流動資産を担保にあてて融資を受けられるところです。

これまで、多額の融資を受けるには相応の価値がある建物や土地などを担保に入れる必要があったため、不動産をもたない中小企業が十分な資金を調達するのは困難でした。

流動資産担保融資(ABL)なら、事業を行ううえで必ず使用・保有しているものを担保にあてることができるうえ、融資額も無担保融資より高いので、有用性の高い資金調達方法として活用できます。

実際、中小企業庁のHPが公開している流動資産担保融資保証制度の活用事例でも、不動産担保がない、あるいは不足している企業が、流動資産を活用して資金を調達している例が複数見受けられます。

メリット2. 赤字・債務超過でも融資を受けられる

一般的な融資の場合、財務状況が重視されるため、赤字を抱えていたり、債務超過に陥ったりしている中小企業は融資を断られるケースが多く見られます。

その点、流動資産担保融資(ABL)は担保とされる流動資産の価値を重視しているため、資産価値が高いと判断された場合、赤字や債務超過に陥っていても融資を受けられる可能性があります。

メリット3. 貸し手と信頼関係を構築できる

流動資産担保融資(ABL)で融資を受けた場合、企業は貸し手に対し、定期的に担保とした流動資産の状況を報告する必要があります。

融資後も密にコミュニケーションを取ることで固い信頼関係を構築すれば、必要に応じて適切なアドバイスやサポートを受けられる可能性が高くなります。

流動資産担保融資(ABL)で資金調達する6つのデメリット

流動資産担保融資(ABL)の利用にはさまざまなメリットがある一方、注意したい点もいくつかあります。ここでは、流動資産担保融資(ABL)で資金調達するデメリットや注意点について詳しく解説します。

デメリット1. 審査や評価、登記手続きに一定の時間がかかる

一般的な融資に比べると、流動資産担保融資(ABL)では金融機関による審査のほかに、資産評価や登記などの手続きが必要になります。そのぶん、他の方法に比べると申込みから融資を受けるまで時間がかかる可能性があります。

時間の目安としては、最低でも1~2ヶ月程度は覚悟しておきべきでしょう。

デメリット2. 流動資産の管理体制を徹底する必要がある

流動資産担保融資(ABL)を利用している間は、金融機関に対して定期的に担保となる資産の状況を報告しなければなりません

報告は金融機関の規則に基づいて正確に行わなければならないため、企業によっては時間やコストをかけて、これまでの流動資産の管理体制を根本から見直す必要があります。

一方、定期報告のクセが付けば、「今までよりも経営管理の効率化、在庫管理コストの低下につながった」など、ポジティブな声もあるようです。

デメリット3. 保証料がかかる

金融機関では、貸し倒れのリスクを防ぐために、流動資産担保融資(ABL)保証制度の利用を融資の前提条件としています。

保証料は融資金額に対して年率0.68%かかりますので、多額の融資を受けるほど、保証料の負担が大きくなります。

デメリット4. 融資限度額と売掛債権の価額が同額とは限らない

売掛債権担保融資の融資限度額は、担保に入れた売掛債権の評価や価値に基づき、一定の掛け目を乗じて算出されます。売掛債権の場合、掛け目は70~100%が相場なので、仮に掛け目が100%を下回った場合、融資額は売掛債権の価額よりも少なくなります。

100%の保証を期待して融資を申し込んだら、70%にあたる額しか融資してもらえなかった…ということもありますので、あらかじめ注意が必要です。

デメリット5. 譲渡禁止特約が付帯された契約は担保の対象にできない

売掛債権担保融資を利用するためには、必ず債権譲渡登記を行う必要があります。そのため、売掛債権そのものに譲渡禁止特約が付帯されている場合は、担保として活用することができません。

譲渡禁止特約が付帯されている売掛債権の債権譲渡を行っても、原則無効になってしまいますので、担保に入れる売掛債権に付帯されている特約の有無や内容はあらかじめチェックしておきましょう。

デメリット6. 売掛先に債権譲渡登記したことを知られる場合もある

売掛債権担保融資を利用する金融機関によっては、債権譲渡登記を行う際、売掛先にその旨を通知することがあります。

債権譲渡登記を行った事実が判明すると、売掛先に売掛債権担保融資を利用したことも知られてしまい、場合によってはその後の取引に支障を来すおそれがあります。

最近は融資を検討する中小企業の事情を考慮し、債権譲渡登記を行った旨をあえて売掛先へ通知しないところもあります。売掛先に事情を知られたくない場合は、金融機関に通知の有無についてあらかじめ確認しておきましょう。

ただし、通知が行われなくても、売掛先が法務局で概要記録事項証明書を取得した場合、債権譲渡登記の事実が知られてしまうことがあります。

流動資産担保融資(売掛債権担保融資)とファクタリングの違い

売掛債権担保融資と混同されがちな金融商品に「ファクタリング」というものがあります。どちらも売掛債権を活用して資金を調達する方法ですが、その内容は似て非なるものですので、両者の違いをしっかり把握しておく必要があります。

まずは売掛債権担保融資とファクタリングの違いを知るために、ファクタリングの概要について解説します。

ファクタリングとは

ファクタリング(Factoring)とは、企業が保有している売掛債権をファクタリング業者に譲渡して現金化する方法のことです。

旧来、企業間の取引では現金と手形での決済が当たり前でした。

今でも現金と手形が主流なものの、帝国データバンクが中小企業庁に提出した資料(下記グラフ参照)によると、企業間取引の決済にファクタリングを10%前後で恒常的に活用しているケースも出てきており、ファクタリングが一般的な決済手段として浸透してきたことがわかります。

決済手段の割合_決済に関するアンケート調査|経済産業省 中小企業庁
決済に関するアンケート調査|経済産業省 中小企業庁

基本的な仕組みとしては、売掛先との取引によって生じた売掛債権の譲渡をファクタリング会社に申込み、譲渡契約を締結します。

ファクタリング会社は契約後、数日以内に売掛債権の買取額を債権者が指定した口座に入金します。その後、取引先から売掛金が入金されたら、ファクタリング会社に対して支払いを済ませて契約は完了です。

なお、上記の契約は債権者とファクタリング会社の間だけで締結されるため、「二社間ファクタリング」といわれています。二社間ファクタリングの場合、外部にファクタリングの事実が漏れないので、売掛先に売掛債権を譲渡した事実を知られずに済むのが利点です。

一方、あらかじめ売掛債権を譲渡する事実を売掛先に通知し、承諾を得てから売買することを「三社間ファクタリング」といいます。この場合、売掛金は債権者を介さず、直接売掛先からファクタリング会社に支払われます。

デメリットは、売掛先にファクタリングの事実を知られること、また、売掛先への通知および承諾に日数を要するなどです。しかし、そのぶんファクタリング会社へ支払う手数料を少なく抑えられる点は大きなメリットとなっています。

なお、ファクタリングのもっと詳しい仕組みやおすすめのファクタリング会社の比較は、下記の記事をご参考ください。

売掛債権担保融資とファクタリングの違いは?

では、ファクタリングと売掛債権担保融資には、どのような違いがあるのでしょうか。以下ではわかりやすく、両者の違いを表にまとめてみました。

 売掛債権担保融資ファクタリング
契約形態金銭消費賃借契約債権譲渡契約
取引先金融機関ファクタリング会社
コスト金利手数料
返済方法一括・分割一括
取引対象となる売掛債権現在および将来発生する予定のもの既に発生しているもの
登記原因譲渡担保債権譲渡

上記の表からもわかるとおり、売掛債権担保融資とファクタリングの一番の違いは、「賃借(融資)」なのか「譲渡(売却)」なのか、ということです。

ファクタリングは、「(債権を)売却する」という意味をもつ「Factor」が語源になっていることもからもわかる通り、売掛債権をファクタリング会社に譲渡し、その売却金で資金の調達を行います。

売掛先から入金があった場合、あらかじめ契約した買取金額をファクタリング会社側に支払う必要はありますが、いわゆる「前借り」にあたりますので、ファクタリング会社から支払われた売却金を返済する必要はありません。契約もその都度終了し、売掛先からの入金をファクタリング会社に支払うときも一括払いが原則となります。

一方の売掛債権担保融資は、現在および将来保有する売掛債権を担保にして、金融機関から資金を調達します。

賃借契約を経て獲得した資金は「融資金」に該当するため、融資を受けた後は、毎月決まった額を金融機関に返済する必要があります。融資限度額は、現在保有している売掛債権だけでなく、今後発生すると推測される未来の売掛債権も評価して決定されるため、現在保有している売掛債権の価値よりも大きな金額を借り入れることもできます。

また、取引の利用にあたってかかるコストにも違いがあります。

ファクタリングの場合のコスト

売却額に一定割合を乗じて算出した手数料を負担する。

売掛債権担保融資の場合のコスト

借入残高に一定割合をかけて算出した金利を負担する。

金利および手数料は取引先によって異なりますが、ファクタリングの場合は二社間で10~20%、三社間で1~10%、売掛債権担保融資は8~15%がおおよその相場とされています。

売掛債権担保融資とファクタリング、どちらで資金調達するのがおすすめ?

売掛債権を活用して資金調達する場合、売掛債権担保融資とファクタリングのどちらを利用するかは、債権者のニーズによって異なります。今ある売掛債権を現金化できれば十分というのなら、ファクタリングの利用がおすすめです。

2社間ファクタリングがおすすめのケース

2社間ファクタリングのメリットは、「取引先には通知されない」「実行スピードが速い(即日〜数日)」、「審査書類が少ない」となりますので、

  • 売掛先には、知られたくない…
  • 今すぐ現金化したい…

という場合は、2社間ファクタリングがおすすめです。

その代わり、手数料が高いという大きなデメリットがありますので、一度2社間ファクタリングを使うと容易には抜け出せなくなる可能性が極めて高い商品です。

そのため、活用はスポットでのみ活用するに抑えられれば、手数料は高くても活用するメリットはあると思います。

2社間ファクタリングの活用前には十分シミュレーションした上で活用しましょう。

最近は銀行などの金融機関から2社間ファクタリングを紹介されることがあるようですが、銀行は、あなたの会社がファクタリングを利用した半年後までを想像せずに案内している印象です。(銀行にマージンが入る仕組みのようです)

「銀行が勧めてきたから安心!」ではないので、注意しましょう。

3社間ファクタリングがおすすめのケース

  • 売掛先に知られてもOK
  • 時間がかかってもかまわない

こんな場合は、3社間ファクタリングを選ぶことがおすすめです。

売掛債権担保融資がおすすめのケース

  • 事業拡大のため
  • 設備投資のため

など、より多額の資金を必要としている場合は、現在および未来の売掛債権を担保にして融資を受けられる売掛債権担保融資を利用した方が、十分な資金を調達できます。

ファクタリングと売掛債権担保融資、どちらを利用するか迷った場合は、「なぜ資金を調達するのか?」、「どのくらいの資金を必要としているのか?」を明確にしてから検討するとよいでしょう。

なおどの手法を選ぶにしても、その後の銀行からの融資が受けにくくなりますのでご注意ください。

流動資産担保融資(ABL)で「資金調達する方法」と「7つのステップ」

中小企業が流動資産担保融資(ABL)で資金を調達する際の方法を、7つのステップにわけてご説明します。

ステップ1. 金融機関に相談する

まずは流動資産担保融資(ABL)を取り扱っている金融機関に対し、融資の相談を行います。

一般的には、すでに取引実績のある銀行などの金融機関に相談するのがスムーズです。もし、取引のある金融機関が対応してくれない場合は、ノンバンクなどが相談先になるでしょう。

ノンバンクとは?

預金ができない(機能がない)金融機関のこと。つまり預金はできず、融資だけをやっている金融機関をノンバンクと呼びます。ノンバンクは「怪しい会社」と感じる方もいますが、銀行とノンバンクは役割の違いなだけであって、全く怪しい会社ではありません

さらに、ノンバンクは「貸金業法」に沿って運営している金融機関であり、「銀行法」に沿って運営される銀行とは法律においても違いがあります。

ノンバンクは「ビジネスローン」「消費者金融」「信販」「リース」「不動産専門ローン」「ファクタリング」など、多くの種類があります。

長らく不動産担保や人的担保が主流だった日本では、流動資産担保融資(ABL)に関する基礎知識が浸透していない傾向にありますので、金融機関から改めてくわしい説明を受けることが大切です。

流動資産担保融資(ABL)のメリット・デメリットについては、この記事の後半でくわしく解説しますが、金融機関でもメリットだけでなく、想定されるリスクについて説明を受けたうえで、自社に適した融資方法かどうかを冷静に見極める必要があります。

ステップ2. 金融機関で融資の申込みを行う

検討の結果、流動資産担保融資(ABL)の利用が妥当と判断した場合は、金融機関で融資の申込みを行います。流動資産担保融資(ABL)を取り扱っている金融機関は複数ありますが、ABLの性質上、すでに取引のある金融機関で申込みするのが最も良い選択肢でしょう。

なお、申込みの際は、通常の申込書以外に、担保とする流動資産の種類に応じて以下の書類が必要となります。

【売掛金を担保にする場合】

  1. 譲渡担保対象売掛先・棚卸資産一覧表
  2. 譲渡担保対象売掛先明細書
  3. 概要記録事項証明書(債券譲渡登記のもの)
  4. 売掛先との取引内容や、実績を証明する資料(※)

※代表的例としては、取引基本契約書や、売掛先が発行した発注書や支払通知書、自社が発行した納品書・請求書、振込を受けている口座の預金通帳などが挙げられます。

【棚卸資産を担保にする場合】

  1. 譲渡担保対象売掛先・棚卸資産一覧表
  2. 棚卸資産売上代金入金口座届出書
  3. 概要記録事項証明書(動産譲渡登記のもの)

なお、上記は一例であり、申込先の金融機関によっては他の資料の提出を求められる場合もあります。必要書類について、くわしくは申込先の金融機関に問い合わせて確認しましょう。

ステップ3. 金融機関の審査

他の融資の場合と同様、金融機関が独自に設けた基準に沿った審査を受けます。一般的には、企業の財務状況や安全性、収益性、成長性、債務に対する返済能力などを審査し、金融機関の基準を満たしているかどうかで判断します。

ステップ4. 担保にする流動資産の評価を受ける

企業が保有する流動資産について、担保としてどの程度の価値があるのか、金融機関が調査を実施します。申込書と共に提出された必要書類をもとに、売掛金が担保の場合は、

  • 「どのくらいの企業が売掛先になっているか」
  • 「売掛先の信用力はどのくらいか」
  • 「どのように売掛金を管理しているか」

などをもとに評価します。

棚卸資産の場合

  • 「商品(在庫)にどのくらいの市場価値があるか」
  • 「主にどんなところに販売しているのか」
  • 「在庫の保存状態や管理体制は良好か」

などを調査します。

なお、金融機関によっては、これらの調査を外部の評価期間に委託することもあります。その場合、評価にかかる費用を借り手(企業)が負担するケースもあるようです。

ステップ5. 融資契約の締結・担保資産の登記

3の審査をパスし、4の資産評価によって融資額が決まったら、金融機関と正式に融資契約を締結します。融資契約を結んだら、担保にした流動資産の登記手続きを行い、貸し手側に流動資産の所有権を譲渡します。

この手続きは、あくまで貸し手が第三者に対抗するための手段を確保するためのものですので、所有権が貸し手に移転されても、借り手は担保とした流動資産をそのまま使用・販売することが可能です

融資が終了(借入金の全額返済)したら、譲渡していた担保の所有権は借り手に返還されます。

ステップ6.融資を受ける

登記手続きが完了したら、金融機関から契約通りの融資を受けられます。

ステップ7. 融資の返済

売掛債権担保融資の返済は、一般的に売掛金が入金される口座から自動引き落としになります。


「日本政策金融公庫」や「銀行」、「信用金庫」、「商工中金」からの資金調達は、知識・経験なく「何となく」で進めると必ず失敗します。資金調達の成功には、金融機関の幅広い知見と一定のノウハウが欠かせません。

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流動資産担保融資(ABL)の活用事例

流動資産担保融資(ABL)は、認知が始まったばかりの資金調達手法のため、事例はとても貴重です。

現在の流動資産担保融資(ABL)の事例の主流は、売掛債権に対しての調達がメインとなりますが、下記のように目的別で見てみると参考になるものも多いはずです。

資金調達の目的事例の概要
仕入れや運転資金
(資金繰り改善)
売掛債権を活用して原材料の仕入れ資金調達を行い、コストダウン
売掛金の早期資金化を活用して仕入れ支払手段を変更し収益の向上
取引拡大に伴う資金繰りを回収期間の長い売掛債権の活用で改善
対抗要件を登記とし、回収期間の長い売掛債権を活用して資金繰りを安定
設備(投資)資金将来の設備投資用の不動産を確保しつつ、掛け目の引き上げをきっかけに優良な売掛債権を活用
不動産担保不足をカバー不動産担保不足の中、事業成長に伴う運転資金需要に根保証を活用
地価の下落のため不動産担保に代わり売掛債権(未発生債権)を活用して資金調達
売上増加対策
入金遅延対策
公共工事の延長に伴って生じた立替資金を未発生債権を利用して調達
大口の受注に際し未発生債権を担保として運転資金を調達

参考>> 中小企業庁:「流動資産担保融資保証制度 活用事例集(売掛金)

流動資産担保融資(ABL)について、よくある質問(Q&A)

ここでは、流動資産担保融資(ABL)で資金調達する際に、現場でよくもらう質問について回答をいたします。ご参考ください。

流動資産担保融資(ABL)について、銀行・信用金庫のような金融機関に、どう思われるのでしょうか?

結論、反応を気にしている金融機関が、あなたの会社への融資にどのようなスタンスかによって、心象は大きく異なります。

その金融機関が融資に「積極的」なタイミング

印象は、「あまり良くありません」。せっかくの融資姿勢に水を差すことに成るため、このタイミングではあまり得策ではありません。

その金融機関が融資に「消極的」なタイミング

特に問題はありません。ただし、その金融機関から融資をしてもらっている場合においては、流動資産担保融資(ABL)を活用する前に一言でも「流動資産担保融資(ABL)を活用しようと思っていますが、問題ないですか?」と断りを入れておきましょう。

もし難色を示される場合は、逆にその金融機関に「では、●●万円を貴行からご融資をお願いします」と伝えて、融資をしてもらうように促しましょう。

流動資産担保融資(ABL)は、中小企業が資金調達するための新たな手段となる

これまで、不動産を持たないことや財務状況などを理由に融資を諦めていた方も、必要な資金を確保できる新たな手段として活用を検討してみてはいかがでしょうか。

もし流動資産担保融資(ABL)も含めたくさんある資金調達方法から、「自社に適切な資金調達方法を模索したい方」は、資金調達代行サービスの「中小企業の融資代行プロ」にご相談(無料)ください。

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「日本政策金融公庫」や「銀行」、「信用金庫」、「商工中金」からの資金調達は、知識・経験なく「何となく」で進めると必ず失敗します。資金調達の成功には、金融機関の幅広い知見と一定のノウハウが欠かせません。

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参考
決済に関するアンケート調査|経済産業省 中小企業庁

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