M&Aの銀行融資ポイントとその他資金調達法を【プロが解説】

M&Aは多額の資金が必要なため、銀行融資やその他資金調達を検討する経営者も多いでしょう。そのため、下記のような疑問・お悩みをお持ちの方も少なくないはずです。

経営者A

M&A銀行融資を受ける「ノウハウ」や「コツ」を知りたいな…

経営者B

M&Aプロジェクトで銀行融資を活用する利点や、リスクを知っておきたい…

M&A銀行融資以外に使える資金調達手法はないのだろうか?

実は、「M&Aの銀行融資の扱い方」を知らない経営者はかなり多いものです。なぜなら、普段から経営者も銀行担当者も「運転資金」や「設備資金」といった、既存事業への資金需要の話しかしていないことが多いからです。

しかし、やり方を間違えなければM&A資金は融資で調達することは十分可能です。銀行からしても(筋のいい)M&Aに融資することはポジティブであることは押さえておくべきでしょう。

筆者は「中小企業の融資代行プロ」という資金調達サービスで、これまでたくさんの経営者の融資をご支援してきました。

記事の筆者
「岡島光太郎」の写真

著者プロフィール

  • 資金調達コンサル会社「(株)融資代行プロ」創業者
  • 財務・資金繰りコンサルティング「御社の社外CFO」創業者
  • 経営コンサル会社「(株)Pro-D-use」創業者
  • 中小企業の融資・補助金など資金調達支援の実績多数

これまでの支援実績
個人事業主 / 創業後スグの1人法人 / 売上300億の法人
資金調達額「100万円」〜「5億円」
あらゆる業界の資金調達 / 財務・資金繰りコンサル実績

本記事ではそんな筆者の経験ともとに、M&Aで融資を検討している方に向けて下記内容を共有していきます。

本記事の内容

  • M&Aに資金調達が必要なワケ
  • M&A目的の資金調達方法4つ
  • 銀行融資のポイント3つ
  • 第三者割当増資のポイント3つ

本記事を読むことで、あなたは他の経営者よりもM&Aの資金を潤沢に獲得でき、一歩先ゆく経営をすることができるようになるでしょう。

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目次

M&Aに融資などの資金調達が必要な「3つの理由」

M&Aに向けた資金調達が求められる理由は、主に以下の3つです。

◆ M&Aに融資などの資金調達が必要な「3つの理由」

  1. 買収や諸経費の負担が大きい
  2. 税金回りの支払いが発生する
  3. コンサルタント料も考慮に入れる必要がある

それでは、それぞれ詳しく解説していきます。

理由1. 買収や諸経費の負担が大きい

買収を検討している場合は、対価を支払うための資金が欠かせません。たとえば、仮に会社を売却するとなれば、多くの場合で以下の計算式で算出します。

時価純資産(修正純資産)+単年度利益×3年(営業権)

上記は、現時点における純資産と今後3年で期待できる収益によって評価するもので、かなりの高額となることも少なくありません。

もちろん、買収の規模に応じて異なりますが、最低でも数百万円以上の金額は動くと考えておいたほうが無難でしょう。なおかつ、資金の用意が契約の条件となることもあります。その場合、速やかな資金調達が必要です。

また、M&Aを進めるにあたっては、株主総会の手配費用をはじめとしたさまざまな経費が必要となります。中長期の計画を立て、あらゆるコストを配慮した資金を準備しておかなければなりません。

理由2. 税金回りの支払いが発生する

事業や会社を買収した場合、必要に応じて各種税金がかかります。また、M&Aによって資本提携を行うことで、対象となる会社の負債も抱えることになります。

たとえば、買収した事業や会社に未納の税金や納税予定があれば、ともに負担しなければならないケースが考えられるでしょう。単純な譲渡対価だけでなく、買収に伴う税金の支払いにもまとまった資金が求められるのです。

理由3. コンサルタント料も考慮に入れる必要がある

M&Aの推進には、非常に高度な専門知識が不可欠です。そのため基本的には、「M&A仲介会社」や「M&A FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」といった専門家の手を借りることが一般的です。

ちなみに、「M&A仲介会社」「M&A FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」の違いについては下記の通りです。

◆ M&A「仲介」「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」の違い

スクロールできます
M&A仲介M&A FA
(ファイナンシャル・アドバイザー)
特徴「買い手」「売り手」両方から手数料を取る「買い手」「売り手」のどちらか側に代わって交渉する
費用成果報酬型 / 5%程
(場合により+着手金)
月額顧問料 / 数十〜数百万
メリット成約までのスピードが速い
利益が出てなくても頼むことが可能
「売主」「買主」それぞれの条件に沿って交渉してくれる(味方でいてくれる)
交渉が丁寧(売却額や保証条項等フォローが手厚い)
デメリット 両者から手数料をもらうため、成約目的営業活動が目立つ
アドバイスは期待できない
利益が数億以上の会社でないと相手にしてくれない
スピードは期待できない

規模の大小に関わらず、最大数百万円程度の費用を確保しておく必要があるでしょう。サービスの質を求めるのであれば、さらにプラスして準備しておかなければなりません。

M&A目的の2つの資金調達の種類

ここまでにご紹介してきたように、M&Aでの資金調達の必要性は高くなっています。なお、実際にM&Aを推進するための資金調達方法としては、以下のように「直接金融」と「間接金融」の2種類あります。

◆ M&A目的の資金調達方法の一覧(一例)

  1. 間接金融(融資/借入)
    • LBO(レバレッジド バイアウト)
  2. 直接金融(投資家/ファンド/VC等)
    • 公募増資
    • 株主割当増資
    • 第三者割当増資

ここでは、具体的にはどのようなものなのか、詳しく紹介します。

種類1. 間接金融(融資/借入)

間接金融とは、簡単にいえば第三者からの「借入」による資金調達で、基本的には銀行など金融機関からの融資を指します。

しかし、融資を受けるには各金融機関の審査を通過しなければならないため、財務状況が芳しくないときは活用できないケースも考えられるでしょう。なお、M&Aにおいては自己資金が少なくても融資を促せるLBOという方法があります。

外部から資金借り入れ(融資)する方法のデッドファイナンスは中小企業やベンチャー企業が使いこなせるといい資金調達方法です。

下記の記事では、デッドファイナンスの特徴や種類、メリット・デメリットなどを解説しています。デッドファイナンスを活用すれば、キャッシュフローの悪化を防いで企業の評価も上げられます。

種類2. 直接金融(投資家/ファンド/VC等)

直接金融とは、有価証券などを使って投資家やVC、ファンド等に働きかけ、自社で資金調達を行う方法です。

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その他にも、「社債発行」も直接金融にあたりますが、この場合には返済義務が生じますます。

M&A目的の間接金融(融資)による6つの資金調達方法

M&A目的の間接金融(融資)による6つの資金調達方法は以下のとおりです。

間接金融(融資)の6つの資金調達方法

  1. 日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」
  2. 商工中金の事業承継支援
  3. プロパー融資
  4. 信用保証協会付き融資
  5. LBO(レバレッジ・バイアウト)
  6. MBO(マネジメント・バイアウト)

それぞれの資金調達方法について、下記から詳しく丁寧に解説していきます。

方法1. 日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」

日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」は、M&Aや事業承継を円滑に進めるための融資制度です。この制度は、特に中小・中堅企業や個人事業主が、事業を引き継ぐ際に活用しやすい融資商品です。

参考> 事業承継・集約・活性化支援資金

日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」の概要は以下の通りです。

事業承継・集約・活性化支援資金の概要

  • 融資制度の目的
    この融資制度は、事業承継やM&Aを通じて企業の活力を強化し、経済的・社会的に有益な事業継続を支援することが目的です。
  • 対象者
    中期的な事業承継を計画を有する法人・個人が対象。具体的には、現経営者が後継者(候補者を含む)と共に事業承継計画を策定していることなどが該当します。
  • 融資限度額
    国民生活事業:最大で7,200万円まで
    中小企業事業:最大で14億4,000万円まで
    ※中小企業事業は、規模の大きい会社が対象となります。そのため、筆者の経験上、ほとんどの企業は国民生活事業が対象となるはずです。
  • 金利
    金利は2.06%〜であり、その他の具体的な条件は個別審査によります

なお、日本政策金融公庫の融資の攻略法やメリット・デメリットについて詳しく知りたい方は、下記の記事が参考になるはずです。日本政策金融公庫からのM&A融資を検討している方は、必ず目を通しておきましょう。

方法2. 商工中金の事業承継支援

商工中金は、中小・中堅企業向けに融資を中心とした金融サービスを提供している金融機関です。金融サービスの中には、M&Aに関する融資支援も含まれています。

参考> 商工中金「事業承継」

商工中金は特に、後継者がいない中小・中堅企業の事業承継を支援するため、M&Aの活用を通じて「会社の存続」と「地域経済の活性化」を図っています。また、「事業の多角化」や「販路拡大」、「人材・技術の確保」など、さまざまな目的のM&Aに指定も、資金面のサポートを提供しています。

商工中金の強み

  • 広範なネットワーク
    商工中金は全国47都道府県に店舗があり、7万社以上の顧客ネットワークがあります。そのため、遠方企業のM&Aでも対応することが可能であり、また、その地域の金融機関とも連携しながらM&A支援することも可能です。
  • M&A人材の配置
    M&A専門の人材が在籍しているため、質の高いサポートを受けられます。
    参考> 商工中金がM&A新部署を設立!

なお、商工中金の融資審査や特徴について詳しく知りたい方は、下記の記事が参考になるはずです。商工中金の融資を検討している方は、必ず目を通しておきましょう。

方法3. プロパー融資

プロパー融資とは、銀行などの金融機関と債務者が第三者の保証のない状態で直接融資を受けることです。プロパー融資を行う銀行には貸し倒れリスクがともなうため、審査が厳しいのが一般的です。

下記からは、プロパー融資で資金調達するメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

プロパー融資で資金調達するメリット

プロパー融資で資金調達する主なメリットは以下のとおりです。

◆ プロパー融資のメリット

  • 金利が比較的低い
  • 融資限度額の上限がない
  • 保証料がかからない

先述のとおり、プロパー融資では銀行の背負うリスクが大きいことから、基本的に信用力の高い企業のみが利用できます。厳正な審査を通過した信用度の高い企業が融資を受けられるため、金利も比較的低くなっています。

また、プロパー融資には融資限度額がないため、金融機関の審査に受かると事業に多額の資金が必要でも全額融資を受けられるかもしれません。第三者の保証がなく金融機関と直接取引するため、保証料がかからないことも大きなメリットのひとつです。

プロパー融資で資金調達するデメリット

プロパー融資で資金調達する主なデメリットは以下のとおりです。

◆ プロパー融資のデメリット

  • 融資審査が厳しい
  • 返済期間が比較的短い

繰り返しにはなりますが、プロパー融資の場合には銀行などの金融機関が貸し倒れリスクを負わなければいけません。融資を申し込む企業に返済能力があるのか厳正に審査する必要があるため、融資審査も厳しくなります。

また、返済期間中に融資審査に受かっても企業の経営状態が悪化する恐れもあることから、返済期間も比較的短くなっています。

方法4. 信用保証協会付き融資

信用保証協会付き融資とは、信用保証協会が債務を保証してくれる融資のことです。つまり、融資を受けたものの返済が難しくなった事業主に代わって、信用保証協会が立て替えて返済してくれる仕組みです。

下記からは、信用保証協会付き融資で資金調達するメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

信用保証協会付き融資で資金調達するメリット

信用保証協会付き融資で資金調達する主なメリットは以下のとおりです。

◆ 信用保証協会付き融資のメリット

  • 融資審査は通りやすい
  • 返済期間が比較的長い

信用保証協会付き融資は信用保証協会からの返済が保証されていることで、銀行などの金融機関は抱えるリスクを軽減できるため、プロパー融資に比べると融資審査に受かりやすくなっています。同様の理由から、返済期間も短くなっています。

信用保証協会付き融資で資金調達するデメリット

信用保証協会付き融資で資金調達する主なデメリットは以下のとおりです。

◆ 信用保証協会付き融資のデメリット

  • 審査期間が比較的長くかかる
  • 信用保証料がかかる
  • 融資金額に上限がある

信用保証協会付き融資では、金融機関だけでなく、信用保証協会の審査も受ける必要があります。そのため、融資を受けられるまでにある程度の時間がかかってしまいます。

また、信用保証料がかかることもデメリットのひとつです。信用保証協会から保証してもらった融資には事業主の経営状態や財務状況などによって異なる手数料率がかかり、その信用保証料を毎年支払う必要があります。

方法5. LBO(レバレッジ・バイアウト

LBO(Leveraged Buyout)とは、譲渡企業の資産やキャッシュフローを担保にして企業を買収する方法です。

買収される側の資産や収益性にもとづいて融資が受けられるため、自社よりも大きな企業をM&Aの対象にできます。なお、LBOは買収対象企業の株式を100%取得して完全子会社とする手法です。

下記からは、LBOで資金調達するメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

LBO(レバレッジ・バイアウト)で資金調達するメリット

LBOで資金調達する主なメリットは以下のとおりです。

◆ LBOのメリット

  • 少ない自己資金でも企業買収ができる
  • 借入金の返済リスクが少ない

LBOは買収対象企業の資産やキャッシュフローを担保に金融機関から買収資金の借入ができるため、買収側企業の自己資金などの信用力が低くても買収ができます。買収側企業のリスクは最低限の出資金部分のみであり、有利な条件で買収ができます。

LBO(レバレッジ・バイアウト)で資金調達するデメリット

LBOで資金調達する主なデメリットは以下のとおりです。

◆ LBOのデメリット

  • 金利が比較的高い
  • 想定したリターンを得られない可能性がある

LBOでは少ない自己資金で企業買収を試みるため、金融機関も一定のリスクは負うことになり、借入金額や金利は比較的高くなります。

また、LBOは将来的に期待されるキャッシュフローを担保にしているため、M&A実施後に事業が軌道に乗らずに失敗した場合は想定したリターンが得られない恐れがあります。

方法6. MBO(マネジメント・バイアウト)

MBO(Management Buyout)とは、企業の経営陣が既存の株主から自社株を買取ることで資金調達を行い、経営権を得る方法です。買収規模の大きいMBOの場合には、ファンドなどのスポンサーを立てることも珍しくありません。

下記からは、MBOで資金調達するメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

MBO(マネジメント・バイアウト)で資金調達するメリット

MBOで資金調達する主なメリットは以下のとおりです。

◆ MBOのメリット

  • 意思決定が自由で迅速になる
  • 上場維持コストを削減できる

多くの株主がいる企業では経営上の意思決定には株主総会の開催や決議などで承認を得なければいけません。時間もかかってしまいます。しかし、経営陣による株式保有で経営権を集中させ、自由度や意思決定が簡単かつ迅速に行えるようになります。

上場維持コストを削減できることも大きなメリットのひとつです。MBOで非上場化することで、監査法人への報酬や証券代行費用などの維持コストを削減できます。

MBO(マネジメント・バイアウト)で資金調達するデメリット

MBOで資金調達する主なデメリットは以下のとおりです。

◆ MBOのデメリット

  • 株主と利害が対立する
  • 財務状況が悪化する可能性がある

なるべく高値で売却したい株主となるべく安値で買取りたい経営陣との間で対立が生じることがあります。また、MBOを行うことで株主から資金調達できなくなるため、財務状況が悪化する可能性があります。


なお、MBO(マネジメント・バイアウト)の資金調達方法について、もっと詳しく知りたい方は、下記の記事が参考になるのでぜひご覧ください。

M&Aで銀行融資を活用する「3つのポイント」

M&Aに向けた資金調達として、とくに有用性が高いのが「銀行融資」や「第三者増資」です。銀行融資と第三者増資の進め方のポイントを、以下の表にまとめました。

◆ 銀行融資と第三者割当増資のポイント

銀行融資第三者増資
信頼を得るための基準を把握する
自社に最適な資金調達方法を検討する
必要資料は綿密に作り込む
既存株主に生じる不利益への配慮
増資に伴う納税額の変動
各種手続きに掛かる手間も考慮する

それぞれのポイントについて、具体的に解説します。まずは、銀行融資を活用するためのポイントから見ていきましょう。

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銀行融資のポイント1. 信頼を得るための基準を把握する

金融機関が重視する点は、「融資相手が滞りなく返済できるかどうか」です。銀行は、できるだけ信頼性の高い企業に融資をするため、「財務」が大きな判断基準ウェイトを占めています。

とくに、キャッシュフロー・損益状況は非常に重要です。さらに、M&Aでは買収対象企業のデータも同じく審査されます。事前にしっかり見極めておく必要があるでしょう。

またM&A目的の融資では、買収後の経営が円滑であることが前提となるため、買収対象の企業の「保有資産」もポイントです。評価が難しい無形固定資産よりも、土地や設備といった価値が明確に判断できる有形固定資産のほうが評価される傾向があります。

場合によっては、譲渡対価が純資産を大幅に超える「のれん」が発生することもあるでしょう。多くの場合、「のれん」に値するブランド力や技術などがあるものと判断されます。しかし、会計上では無形固定資産となるため、きちんと説明しなければなりません。

銀行融資のポイント2. 自社に最適な資金調達方法を検討する

銀行は基本的に、過去の取引実績が滞りなく、かつ取引量が多い相手を「優良顧客」とみなします。そのため銀行を選ぶ際には、より「融資取引が多い」「決済頻度が高い」など、関係性の強い銀行のほうが有利な条件で借入できるでしょう。

ただし、すでに大きな借入を受けている銀行だと、現状以上の融資が受けられない可能性があります。銀行は、特定企業に貸付が集中するのはリスクが高いため、一定額を超えると融資してもらえないことがあります。

さらに、「メガバンク」、「地銀」、「信用金庫」など、銀行の種類ごとに特性も大きく異なります。自社の規模や経営状況に応じた銀行を選定しないと、そもそも融資が受けられない可能性も高くなります。

M&A資金については、できれば銀行がリスクを取る融資である「プロパー融資」が好ましいと筆者は考えます。

しかし、プロパー融資は普通の中小企業にとってはハードルが高いため、借入上限金額はあるものの「信用保証協会付融資」の利用も検討しましょう。所定の信用保証料の支払いが求められますが、返済が難しくなった場合には信用保証協会が立て替えをしてくれます。返済保証があるため、銀行からの融資も受けやすい点がメリットです。

銀行融資のポイント3. 必要資料は綿密に作り込む

銀行融資では、企業の財務状況の共有するために決算書を提出するのが一般的です。しかし、自発的に「綿密な事業計画書」の提出をすることも好ましいでしょう。(「綿密な」がポイントです)

M&Aに限らず、経営の将来性が見通せなければ、銀行は融資をしたくありません。したがって、銀行に提出する事業計画書では、どのような成果を出して収益につなげるのかを明示する必要があります。できるだけ数値化した具体的な内容で、実現性の高いビジネスプランを作り込んでおくのがベストでしょう。

税理士や、「中小企業の融資代行プロ」のような事業計画書の代行サービスなど、専門家の力を借りるのもひとつの方法です。

そのほか、財務諸表・返済計画といった資料も必要となるので、あわせて入念に準備しておきましょう。

事業計画書の内容や書き方は、銀行に借入金の返済条件を交渉するリスケジュールのタイミングや赤字決算後の融資審査で経営改善計画書が必要なタイミングでも活かされます。

以下の記事では、経営改善計画書(事業計画書)の作成のコツやポイントをテンプレートとともに解説しています。最後まで読めば、信頼性の高い経営改善計画書(事業計画書)を作成できます。

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M&A目的の「直接金融」による3つの資金調達方法

直接金融によるM&Aの資金調達方法には、主に以下の3つがあります。

◆ 直接金融の3つの資金調達方法

  1. 公募増資
  2. 株主割当増資
  3. 第三者割当増資

それぞれの資金調達方法について、詳しく解説していきます。

方法1. 公募増資

公募増資とは、企業が新規で株式を発行し、一般投資家などに幅広く販売する資金調達方法です。株式市場を通して個人投資家も含めた不特定多数の投資家に幅広く募集するため、基本的には上場企業などの株式公開会社による増資の手段です。

つまり、非公開会社での公募増資は基本的にはできません。

下記から、公募増資のメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

公募増資で資金調達するメリット

公募増資で資金調達する主なメリットは以下のとおりです。

◆ 公募増資のメリット

  • 不特定多数から多額の資金を調達できる
  • 株主層が拡大される
  • 株式の流動性が高まる

公募増資を行う際は証券会社などを通じて幅広い投資家から資金調達します。不特定多数の投資家から資金調達できるため、第三者割当増資などよりも比較的多額の資金調達が可能です。

また、それまで公募増資を行う企業のことを認知していなかった投資家からも注目してもらえるため、企業にとっては株主層を拡大できるチャンスです。さらに、発行株式数の増加で流動性が高まり、取引の出来高が高くなります。

公募増資で資金調達するデメリット

公募増資で資金調達する主なデメリットは以下のとおりです。

◆ 公募増資のデメリット

  • 配当金の支払い負担が増加する
  • 会社にとって望まない株主が株式を持つ可能性がある

企業の発行株式数が増加するため、配当金を出している企業であれば、それまで以上に増配させる必要があります。長期的な財務状況の観点から考えれば、会社の負担になりかねません。

また、新たな株主が増えることで、物言う株主などの会社にとってあまり望ましくない株主が増えることや既存株主の議決権割合が低下する懸念点もあります。

方法2. 株主割当増資

株主割当増資とは、既存株主のみに新株を発行する資金調達方法です。具体的には、既存の株主に対して持ち株数に応じて新株を割り当てる権利を付与します。

ただし、既存の株主には自社株は含まれません。つまり、株主構成が変わることはないのです。

下記から、株主割当増資のメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

株主割当増資で資金調達するメリット

株主割当増資で資金調達する主なメリットは以下のとおりです。

◆ 株主割当増資のメリット

  • 株主構成が変わらない
  • 調達した資金を返済する必要がない

新株を割り当てた既存株主が出資すれば、株主構成が変わることはありません。また、調達した資金を返済する必要がないことも大きな特徴のひとつです。

株主割当増資では既存株主から出資を受けるものの、金融機関からの融資とは異なり、株主から受ける出資金の返済義務などありません。

株主割当増資で資金調達するデメリット

株主割当増資で資金調達する主なデメリットは以下のとおりです。

◆ 株主割当増資のデメリット

  • 多額の資金を調達できない
  • 多くの手間やコストがかかる

既存の株主に限定しているため、資金源が比較的少なく、すべての株主が新株を引き受けるとは限りません。そのため、大規模な資金調達は期待できない可能性があります。

また、以下のように手間と時間がかかってしまうこともデメリットのひとつです。

株主割当増資の手続きや手間

  • 取締役会や株主総会で募集要項を決定する
  • 新株募集事項を公示する
  • 申込みを受けて株式を割り当てる
  • 登記を変更する

方法3. 第三者割当増資

第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を割り当てる資金調達方法です。特定の第三者とは、「自社の役員」や「取引先」、「取引金融機関」などが該当します。

より詳しく、第三者割当増資について学びたい方は、下記の記事が参考になりますのでご覧ください。

下記からは、第三者割当増資で資金調達するメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

第三者割当増資で資金調達するメリット

第三者割当増資で資金調達する主なメリットは以下のとおりです。

◆ 第三者割当増資のメリット

  • 迅速に資金調達ができる
  • ビジネスパートナーシップを強化できる

上場企業の場合、取締役会決議で第三者割当株式や新株予約権の発行ができるため、比較的短期間で資金調達ができます。また、調達した資金に返済義務がない点も大きなメリットのひとつです。

第三者割当増資の引受先は、新株発行企業にとって良好な関係の「取引先」や「従業員」、「出資者」が一般的です。そのため、より強固なビジネスパートナーシップを構築できます。

第三者割当増資で資金調達するデメリット

第三者割当増資で資金調達する主なデメリットは以下のとおりです。

◆ 第三者割当増資のデメリット

  • 既存株主の保有割合が低下する
  • 多額の資金が必要になる

株式発行数の増加や株主構成の変化があるため、既存株主にとっては株式の保有割合が低下することは大きなデメリットです。

また、会社の支配権獲得を目的に第三者割当増資を利用する場合には既存株主の株式保有割合を考慮に入れながら一定以上の新株を引き受ける必要があるため、株式譲渡よりも比較的多くの資金を準備する必要があります。

M&Aで第三者割当増資を活用する「3つのポイント」

第三者割当増資は資本金を増やす方法のひとつであり、中小企業では活用されることが多くなっています。第三者割当増資を活用する際、気をつけておくべきポイントについて見ていきます。

なお以下の記事では、株式譲渡や公募増資との違い、メリット・デメリットなどを解説しています。計画性をもって第三者割当増資を行えば効率的に資金調達ができます。

第三者割当増資のポイント1. 既存株主に生じる不利益への配慮

第三者割当増資を行うことで、自社の資金が増えると同時に、当然ながら株式の発行総数も増加します。

既存の株主側としては、自分の持ち株に変わりがないにも関わらず、1株あたりの価値が低くなってしまうのです。なおかつ、株式の母数が大きくなっているため、持ち株の比率も下がってしまいます。

要するに第三者割当増資を実行すると、既存の株主にとっての不利益となりかねません。

また、第三者割増増資は持ち株の所有率のバランスなども十分に考慮して進めていかなければなりません。株式の保有率が変動するため、株主総会における議決権の変化にも注意しましょう。

たとえば、役員の選任・解任といった重要な意思決定にも影響が出る可能性があるのです。場合によっては、不利益を避けるために、株式を売却する株主が出てくるかもしれません。

株価の下落を防ぐためにも、発行価額や割当の方法などは、妥当性を考慮して調整する必要があります。

第三者割当増資のポイント2. 増資に伴う納税額の変動

増資によって自社の資本金はプラスになります。しかし、一定額を超えると納税額が高くなることもあるため、注意しましょう。

ボーダーラインとしては資本金1,000万円または1億円です。

1,000万円を超えると消費税の免税、1億円以上になると中小企業向けの税制優遇が解除されます。資本金1,000万円、もしくは1億円未満の場合には、増税の負担もきちんと考慮して第三者割当増資を進めていくのが得策です。

第三者割当増資のポイント3. 各種手続きに掛かる手間も考慮する

第三者割当増資を実行するには、募集要項の作成・決定に向けた決議・新規株式の引き受けというような、いくつもの段階を踏まなければなりません。

さらに、無事に増資が完了した後には、資本金の情報が変わることになるので、登記の変更や登録免許税の支払いも求められます。

もちろん、融資でも同じように数々の処理が必要です。増資の場合は、法務局への変更登記を申請しなければなりません。

M&Aの融資・資金調達で、よくある質問(Q&A)

「M&Aのために資金調達をする」というのは、どういうことですか?

買収したい会社がある場合、その会社の資産や将来性(先々のキャッシュフロー予測)を担保にして、銀行や投資家から資金調達することを指します。

M&Aが成立した場合、買われた会社の借入(融資)はどうなりますか?

M&Aでは、銀行融資や役員借入金については買い手が引き継ぐことがほとんどです。(つまり債務も引き継ぐという考え方です)M&A後には、買い手企業が銀行や役員に対してコツコツと返済していくという形になります。

M&Aでは、株式の何パーセントを取得することが多いのでしょうか?

M&Aでは、その会社に関わる「権利」と「所有権」を売り手と買い手で交渉をします。基本的には、会社を売却する場合においては株式の100%を取得する必要があります。

参考までに、売却ではなく「資本提携」であれば、3%〜33.3%の取得するというケースが多いようです。

M&Aは、誰のためのものですか?

M&Aはオーナーだけでなく、「従業員」「取引先」のためにもなります

事業承継系のM&Aの場合は特に、もし会社を廃業してしまった場合には、

  • 従業員の雇用が無くなる
  • 取引先にも迷惑がかかる

こんなケースが多くなります。M&Aにより事業継続ができることで、オーナー・従業員・取引先の3者がwin-win-winの関係になることもあるのです。

M&Aで、買収額の評価対象になる要素はなんですか?

M&Aで会社を買収する際に、買収額にかかわる評価ポイントは下記の通りです。

  • 収支・財務状況
  • 事業規模や保有不動産
  • 事業展開しているエリアや領域
  • 技術力や優良取引先との商流
  • 優秀な従業員
  • 地域内や業界内の知名度やシェア
  • 業歴
  • 知的財産権やノウハウ
  • 事業領域の将来性
  • 許認可

M&Aは、どこに相談したらいいの?

M&Aは非常に専門的な知識や経験が必要です。そのため、間違った判断をして後で大きな損失を被ることもありますので、必ず専門家に相談することをオススメします。

M&Aの身近な相談・支援先は下記のような機関です。

  • 商工会議所商工会
  • 中小企業団体中央会
  • 公認会計士・税理士
  • 中小企業診断士
  • 弁護士
  • 地方銀行・信用金庫・信用組合
  • 事業引継ぎ支援センター
  • 御社の社外CFO

相談の際には「直近3年分の決算書」「税務申告書」「勘定科目内訳明細書」を準備して相談しましょう。

融資などの資金調達をうまく活用し、より万全にM&Aを成功させよう!

M&Aには多額の資金が必要です。手元資金に余裕がなく、不安がある場合は、銀行融資(借入)や増資によって資金調達をしておきましょう。

増資は、自社株式の発行で資金調達でき、返済義務がないことがメリットです。しかし、株式が希薄化し、経営を自由にできなくなるデメリットがあります。

一方、銀行融資(借入)であれば、融資審査さえ通れば大きな資金を獲得できることがメリットですが、将来的には返済義務があることがデメリットです。

資金調達はM&Aにおいて非常に重要なファクターです。それぞれの特徴を踏まえ、自社に適した方法を見極めましょう。


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